THS-IIのシステム出力の計算方法

システム出力とは何か

最近は主要諸元表にあまり記載されなくなりましたが、トヨタハイブリッド車においてエンジンとモーターを同時に駆動した時の総合的な出力(馬力)のことです。エンジンとモーターを同時に駆動できるものの単純な足し算ではありませんが、トヨタ算定値として計算式は公開されていません。

誤解を恐れずに言ってしまいますが、何も制限がなければシステム出力はエンジン出力 + モーター出力で間違いないです。エンジンは高回転部分で最大出力ですが、モーターは極低回転を除き定出力特定があるのでどこでも最大出力です。なのでシンプルに合算になるはずです。

しかし THS-II のシステム出力が単純な合算ではないのはエンジンやモーター以外に制限があるためです。

システム出力の例

車種 排気量 エンジン モーター システム
ヤリス(初代) 1,490cc 67kW/5,500rpm 59kW 85kW
126kW?(合算)
プリウス(4代目) 1,797cc 72kW/5,200rpm 53kW 90kW
125kW?(合算)
LEXUS UX(初代) 1,986cc 107kW/6,000rpm 80kW 135kW
187kW?(合算)
カムリ(10代目) 2,487cc 131kW/5,700rpm 88kW 155kW
219kW?(合算)
RAV4 PHV(5代目) 2,487cc 130kW/6,000rpm 134kW 225kW
264kW?(合算)
クラウン(15代目) 3,456cc 220kW/6,600rpm 132kW 264kW
352kW?(合算)

THS-II の仕組みから算出方法を考察してみる

システム出力と車速の関係

何もないところから考察はできないので、THS-II が発表された時の資料を見てみます。「トヨタ、新世代ハイブリッドシステム「THSII」を開発 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト」。この車速とシステム出力のグラフを見る限り、85km/h 以上でないとシステム出力の最大を出せないようです。

車速と出力の関係

なぜそうなるかというと、まず THS-II にはガソリン車のような変速機はないため車速が上がっていかないとエンジンのトルクは伝わりません。つまり通常のエンジンと比較するとエンジンを回せば出力が上がるが、THS-II では低速時にエンジンを回してもシステム出力は上がらず車速が上がって初めて上がっていくということになります。

まとめると低速時にはエンジンで発電しモーターの全パワーを使うことができます。ただしエンジンは直接タイヤに伝わらないためシステム全体でいえば出力は低くほぼモーターとなります。一方で車速が上がってくると発電量が減って直接タイヤに駆動されます。この場合ジェネレーターで殆ど発電されませんのでバッテリーからの出力のみでモーターを駆動させています。

バッテリー出力の限界

トヨタのハイブリッドシステムではエンジンの方が出力が大きいため、基本的には車速が上がった時にしか最大出力を発揮できません。一方で車速が上がった時にはジェネレーターで発電できないためバッテリーに頼って駆動することになります。

実はバッテリーが無制限で出力できるのであれば単純にエンジン+モーターの出力なんですがバッテリーには充電や放電の速度に限界があります。急な坂道でブレーキを踏んでも回生ブレーキの上限に達して思ったほど回生してくれないのもこれが原因です。

つまりエンジンが最大出力状態だと充電されないため電力不足となり、システム出力は「バッテリー出力能力 + エンジン出力」となります。ちなみにバッテリー出力から変換ロスを含めると効率は約90%と推定されます。(※2010年型プリウスのモーター効率は88%~96%を参考)

基本的にバッテリーの出力能力は非公開ですが、一部実測値がありましたのでそれをもとに計算してみた結果を以下のテーブルに書き出してみます。※計算方法:エンジン出力 + バッテリー出力(90%)

車種 エンジン バッテリー モーター システム
ヤリス(初代) 67kW 非公開
放電時: 20kW(実測)
充電時: -35kW(実測)
59kW 85kW
計算結果: 85kW
プリウス(4代目) 72kW 非公開
放電時: 21kW(実測)
充電時: -31.9kW(実測)
53kW 90kW
計算結果: 90.9kW

実測値をもとに計算してみるとシステム出力がおおむね確からしいことがわかるかと思います。非公開なのであくまで推定ですが、構造を考えると間違っていないかと思います。

バッテリー出力を推定してみる

実測値が存在しないモデルに関してもこれを当てはめて計算してみます。

車種 エンジン バッテリー モーター システム
LEXUS UX(初代) 107kW ニッケル水素
31kW(推定)
80kW 135kW
カムリ(10代目) 131kW ニッケル水素※
27kW(推定)
88kW 155kW
RAV4 PHV(5代目) 130kW リチウムイオン
106kW(推定)
134kW 225kW
クラウン(15代目) 220kW リチウムイオン
49kW(推定)
132kW 264kW
※2WDの場合はリチウムイオン

これもあくまで推定ですがニッケル水素を採用する車種ではバッテリー出力が低いためシステム出力は低くなりがちになっているのではないかと思います。カムリは2WDであればリチウムイオンですが、4WDとシステムを共用したいはずですのでニッケル水素に合わせて制限していると思います。

一方でRAV4 PHVのようにモーター主体となってくるプラグインハイブリッドではバッテリーが強化され高出力化されてそうなのも見て取れます。またクラウンのようにエンジン出力が高いものに関してもバッテリーが強化され車格に見合ったシステム出力が出るようになってるのではないかと推測できます。

ホンダでは Fit でバッテリー出力が 39.6kW (リチウムイオン電池)もありますので、トヨタは他社と比較してもバッテリー性能が低いですね。トヨタではコンパクトカー向けのバッテリーの強化が課題だと思います。

まとめ

トヨタハイブリッドシステムのシステム出力の計算式は「エンジン出力 + バッテリー出力 x モーター効率」で求めるのが最も理にかなっていると思います。

車速と出力の関係

もう一度上で出した図を持ってきますが分かりやすく表でまとめるとこうなります。

車速 モード 解説
~22km/h モーター最大トルク
エンジン出力増加中
モーターの出力が上がっています
エンジンのトルクも徐々に伝わります
22~85km/h モーター定出力特性
エンジン出力増加中
モーターは定出力状態
エンジンのトルクが徐々に伝わる状態
85km/h~ モーター出力低下
エンジン出力最大
ようやくエンジントルクがすべて伝わります
充電量が減るため同時にモーター出力が低下します
結果システム全体で定出力状態になります

一方でバッテリー出力を高めるにはバッテリーをリチウムイオンや全固体電池に変更したり、大容量にして並列に接続する方法がありますが、どれもコストが上がる内容ですね。なので大容量を搭載する PHV やコストを気にしない高級車でしか高出力化しないんだと思います。ハイブリッド車で全力走行する人もあまりいないですしね...

今後 THS-II でもバッテリーが強化されればシステム出力が上がっていくのではないかと思います。

ちなみに補足ですがシステム最大トルクはどこかといえばモーターの最大トルクと、その時のエンジンのトルクを足した値となります。このときのエンジントルクはジェネレーターの発電量とエンジンのトルクカーブが分からなければ求まらないので、公開されてる資料から求めるのは困難ですね...

他社のシステム出力(参考)

他社といってもニッサン、ホンダとの比較です。ニッサンはエンジンを直接駆動しないためシステム出力は「モーター出力を上限にエンジン+バッテリー出力」となります。一方ホンダ(e:HEV)の場合はエンジン直結モードがあるため「モーター出力かエンジン出力のどちらか高いほう」となります。

車種 エンジン バッテリー モーター システム
トヨタ ヤリス(初代) 67kW 20kW 59kW 85kW
ニッサン ノート(3代目) 60kW 非公開 85kW 85kW
ホンダ フィット(5代目) 72kW 39.6kW 80kW 80kW

ハイブリッドの構造によってシステム出力の求め方が変わるのも面白いですね。